気候シナリオ分析:気候変動による投資リスクと機会を検証する綿密なフレームワーク

JEREMY LAWSON; EVA CAIRNS; CRAIG MACKENZIE; ANNA MOSS

気候変動がもたらす物理的なリスクと、グローバルなゼロカーボン経済への長期的な移行は、運用の世界にも大きな影響を与えます。気候変動による物理的なリスクと移行リスクに係る投資機会を特定しつつ、他のリスクファクターを適切に管理するには、シナリオ分析が必要不可欠となります。

アバディーン・スタンダード・インベストメンツ(ASI)では気候シナリオ分析に対する独自のアプローチを開発しており、確率論的なフレームワークにおいて、気候問題が資産価格に与える影響をマクロとミクロの両面から統合しています。このアプローチの詳細については、 ASIの白書(英語)をご参照ください。ASIの考察は、ビジネス戦略や運用プロセスに加え、お客様向けの気候変動運用ソリューションに考慮されています。

気候シナリオの分析は、気候変動問題を主軸におくアセット・マネージャーにとって必要不可欠な取り組み

気候変動は、現代における決定的な問題の一つです。気候変動がもたらす物理的な現象は、生態系のみならず人類の健康、経済インフラにも悪影響を及ぼしています。そして、世界の平均気温上昇を産業革命前からの1.5度未満に抑えることができるとしても、さらに破壊的な結果を招きつつあります。一方、温室効果ガスの排出抑制と気候変動の制限を目指す政策イニシアティブや民間セクターのコミットメント、テクノロジーの進歩を背景に、エネルギーシステムと経済活動のパターンは大きく変化し始めています。

投資家にとり、物理的な気候変動とエネルギー転換が投資先の企業や市場の投資収益にどのような影響をもたらすかを理解することは極めて重要です。ASIでは、それらの影響を理解することで、お客様にとってより耐性の高いポートフォリオを構築することができ、長期的なリターンの向上につながると考えています。また、アセットオーナーや規制当局からの同分野に対する要請が一段と強まっていることも確かです。

気候シナリオ分析に対するASIの独自アプローチは、他のアセット・マネージャーとは一線を画す

気候シナリオ分析に対するASIのアプローチは、健全な投資判断を行い、投資先の企業にポジティブな変化を促すと同時に、お客様のために優れた成果を実現するためには、厳格で透明性の高い方法論が不可欠であるという見解に基づいています。ASIの気候シナリオ・フレームワークでは、次の3つのポイントを重視することで他の運用会社のフレームワークとの差別化を図り、同時に、その結果をASIの事業戦略にも取り入れています。

  1. 独自のシナリオ設計:一般的に気候シナリオには、外部機関の専門家が作成する「既製」のシナリオが採用されています。これは比較可能性を促進し、政策設計に役立つとはいえ、地域やセクター間の政策が均一であるという非現実的な仮定により、運用戦略の統合や商品開発における有用性を低下させています。こうした仮定による縛りを緩和することで、ASIの気候変動のリスクと投資機会の評価をより良い形で伝えることのできる、より整合性の高いシナリオを構築することが可能となります。
  2. マクロとミクロの統合:各運用戦略の統合には、ASIが管理するすべての資産に対して、気候シナリオが与える影響を反映させるための綿密なプロセスが必要です。外部パートナーであるプラネットリクス社(Planetrics)の専門知識を活用し、ASIでは以下の3つの段階を通じ実施します。
    1. ASIのシナリオは炭素税や物理的な損害などの経済的インパクトを反映し、エネルギー使用量や異なる製品の需要と供給を時間の経過とともに変化させます。
    2. 次に資産価値への影響を、これら経済的インパクトに対する企業のエクスポージャー、緩和や適応といったインパクトに対応する能力、業界内での競争優位性や、それに伴いコスト増を消費者側に転嫁する手法、あるいはより大きな影響を受ける競合他社を抑え市場シェアを獲得する能力に応じて、モデル化します。
    3. 最後に、セクターや地域、ポートフォリオのレベルで集計可能な標準的資産価格設定モデルを使い、個々の証券の価値下落を予測します。
  3. 確率論的評価:気候変動やエネルギー転換がもたらす経済的な影響は、規制や政策、技術の進化に左右されます。一方、これらの要因を長期的な視野で予測することは困難であり、こうした不確実性を考慮に入れ、新しい情報の入手とともに分析を更新することが重要です。ASIでは、以下の方法でこれらを実現しています。
    1. 実現可能性のあるシナリオ範囲を広く特定(図表1
    2. 政治経済と各金融政策に基づき、各シナリオに確率を割り当て
    3. 結果をプールし、資産価格の確率加重平均結果への反応やテール結果の分析を可能に
    4. シナリオとその確率を年次ベースで更新

図表1:当社の独自シナリオにより、地域やセクター間での政策の差異を反映させることが可能に

図表1出典:プラネットリクス、2021年1月

大規模なエネルギー転換―規模と速度、構成が課題に

エネルギーの未来に関し、ASIの分析から導き出される最も重要な結論は以下のとおりです。

  1. 世界的な低炭素経済への移行は、継続する公算が非常に大きい(図表2確率加重(平均)シナリオでも、産業革命前からの世界の平均気温上昇を2度未満に抑えられないことを想定しているものの、政策の厳格化と低炭素技術の普及により、世界のエネルギー・ミックスにおける再生不可能なエネルギーの占める割合は、現在の68%から2050年までに27%に低下することが予想されます。そして、パリ協定ベースのシナリオ全体の加重平均では、その割合はさらに12%に低下します。
  2. 一方、移行速度はセクターや地域間で不均一に。気候緩和に向けた政策は 主要国によって大きく異なり、さらに軽減の機会はセクターによっても大きく異なるため、移行は異なる速度で進む公算が大きいとみています。セクター的には、電力部門がパリ協定ベースの時間枠で脱炭素化する公算が最も大きく、産業部門と建設部門は最もその公算が小さくなります。地理的には、欧州は2050年までにゼロカーボンへの移行を完了する確率が最も高い一方、新興市場は最も低く、米国はその中間に位置します。
  3. 太陽光発電は、エネルギー転換の最大の受益者になる公算が大きい。ASIの最も悲観的なシナリオでも、電力部門のエネルギーミックスに占める太陽光発電の割合は2050年までに4%へと倍増し、平均シナリオでは25%の伸びを示し、厳格な行動がとられるシナリオでは60%近くに上昇します。また、陸上と洋上の風力発電も、太陽光発電の効率と貯蔵能力の将来的な改善に関する悲観的な仮定に基づく場合を除き、太陽光発電の伸びよりは下回るとはいえ、ほとんどのシナリオでエネルギーミックスのシェアに占める割合で拡大するとみています。
  4. 化石燃料のなかで、石炭の見通しは特に暗いものの、石油需要のピークは10年以上先になる公算が大きい。ASIの平均シナリオでは、石炭の使用量は今後30年間で年率0.9%ar)減少し、パリ協定をベースとした平均的なシナリオでは年率4%以上落ち込むとされています。石炭は環境に最も悪影響を及ぼす化石燃料であり、カーボン・プライシングとクリーンな代替エネルギーのコストの低下により最大の打撃を受けるからです。石油需要は、平均シナリオでは電気自動車の割合が臨界閾値を超えると、2030年代初めまでに徐々に増加した後、次第に減少します。
  5. 天然ガスはエネルギー・ミックスにおいてより大きな役割を果たすものの、需要の見通しはシナリオによって大きく異なる。ASIの研究では、天然ガスが移行燃料として機能する可能性が確認されており、平均シナリオでは使用量が約1%増加します。しかし、パリ協定ベースのシナリオでは、長期的な見通しは、再生可能エネルギー技術のコストがどの程度急速に低下し続けるか、また炭素の回収と貯留技術が時間の経過とともにコスト競争力を高めるかどうかに大きく左右されるとみています。

図表2:平均シナリオとパリ協定ベースのシナリオにおけるエネルギー技術の成長率の比較

 

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出典:プラネットリクスとASIアナリティクス

 

気候変動をめぐるリスクと機会は、主にミクロまたは個別企業特有の動きに存在

気候変動が世界の株式全体のリターンに与える影響は非常に限定的であり、ほとんどのシナリオでは総合評価に対して±2%です。これは、過去50年間のS&P500種株価指数の平均リターンのおよそ4分の1を失うことに相当します。地域の指数に対する総合的な影響も、その多様化のために一般的に見ても控えめです。

図表3:資産価格の低下は少数のセクターに集中

 

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3つのシナリオの下で、セクター・レベルの影響または減少(%)を比較(時価総額加重、ベースラインに織り込まれている数値と比較)。括弧内のパーセントは、総合指数内のセクター比重を示す。出典:プラネットリクスとASIアナリティクス、2021年1月

 

セクター・レベルでは、世界の公益事業が最大の勝者になる公算が大きいでしょう。一方で、化石燃料エネルギーは、エネルギー転換における最大の敗者になるといえます(図表3)。実際、再生可能エネルギーに対する需要が高まっていることから、世界の公益事業部門の株式と債券が値下がりするシナリオはなく、最も厳しい環境政策がとられるシナリオでは、30%の上昇が見込まれています。対照的に、化石燃料エネルギーのセクターが平均的なマイナス影響を受けない唯一のシナリオは、長期にわたり現在の気候政策の進展が見られない場合です。他のほとんどのセクターは、炭素強度がより低いため、厳しい削減シナリオの下でも、影響は平均してごくわずかです。

図表4:セクター全体では、気候変動による価値低下の影響は広く分散

 

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MSCIワールド指数の各セクターのすべての構成企業に対する総合的な影響の分散(確率加重平均シナリオ)。200%を超える外れ値は非表示。出典:MSCI*、プラネティクスおよびASIアナリティクス、2021年1月

 

しかし、セクター全体においては、サブ・セクターや企業、地域間で大きな分散が見られます。最大のリスクと機会は、エネルギーや公益事業、資本財・サービス、資材、情報技術のセクターに集中しています(図表4)。再生可能エネルギーを使用した事業者は、化石燃料エネルギーを活用した事業者を大幅に上回ります。銅とリチウムの鉱山会社は石炭会社をはるかに大きくアウトパフォームし、石油機器メーカーは、バッテリーや風力タービン、ソーラーパネルのメーカーをアンダーパフォームします(図表5)。

図表5:強靭性の高い勝者と一般的な敗者

 

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選択したサブ・セクターにおける上昇と下落の分布。出典:プラネットリクスとASIアナリティクス、2021年1月

 

このことは、シナリオ分析を利用して、アクティブ運用におけるポートフォリオにアルファを追加する大きな機会を意味します。また、気候変動の勝者に傾斜する投資戦略やテーマ別の気候変動ソリューション・ポートフォリオには、より体系的な機会も存在します。

上場社債に関する結論は株式に関する結論に似ていますが、いくつかの重要な違いがあります。エネルギー転換の影響は株式と同じセクターに集中しており、セクターや地域内の分散は株式よりもはるかに大きく、指数レベルでは総合的な影響は控えめです。ただし、社債は株式よりも資本構造のなかで上位に位置するとともに、多くの社債商品の実効デュレーションが短いため、特定の企業の社債価格の低下の規模も一般的に低くなります

ASIの分析に基づく考察をビジネス全体に統合

ASIでは、今後数ヶ月の間に、気候シナリオの枠組みと考察をASIのビジネス戦略や投資プロセスの重要な段階、またお客様に良好な成果をもたらすための気候主導型ソリューションの開発に完全に統合します。これには以下の内容が含まれます。

  1. ASIのシナリオ分析に活用する気候関連の調査質問を企業に提示し、その結果をアクティブな銘柄選択に積極的に応用します。これによりASIの見解は企業の移行戦略の信頼性に対する評価などを含む、より広範な企業調査をカバーすることとなります。また、ASIは実現可能な様々な気候変動の方向性に対し耐性のあるポートフォリオを構築することが可能になります。
  2. スチュワードシップのアプローチにシナリオ分析を組み入れます。重大な気候リスクが特定された場合は、企業と協力し、企業がそれらを緩和するためにどのような行動を採択しているのかを理解し、企業が独自の分析を行うことを奨励します。これは、国際的な「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の枠組みに沿り気候変動情報を開示するというASIの原則に一致します。リスクが十分に管理されていない場合には、この枠組みに基づき投資判断がなされます。
  3. 気候変動のリスクと機会を戦略的資産配分(SAA)フレームワークに完全に統合します。確率加重平均アプローチは、平均分散の最適化を改善するために特に有益です。
  4. お客様のためにカーボンゼロを含む革新的な気候変動ソリューションを幅広く開発します。これには、我々が想定する大方のシナリオおよび平均シナリオ(図表6参照)を加味し、標準的な運用成果を上回ることを目指す気候変動関連指数、および気候変動運用ソリューショントランジション(移行)・リーダーにフォーカスした気候変動関連運用ソリューションなどが含まれます。これにより投資家は気候関連のリスクを回避し、気候関連がもたらす投資機会の恩恵を受けることができるとともに、脱炭素化に現実的な影響を与えることができます。

図表6:気候変動傾斜ポートフォリオは、平均シナリオでベンチマークをアウトパフォームする

 

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出典:プラネットリクスとASIアナリティクス、2021年1月

 

気候シナリオ分析は1回限りのプロジェクトではなく、継続的なものです。ASIが見据える今後のプログラムは多岐にわたります。政策や技術、市場構造の変化を考慮し、分析は年次ベースで更新します。また、ASIでは分析をプライベート・アセットの全範囲にも拡大し、エネルギーや公益事業などのセクター内の変化の要因をより詳細に調査します。ダイナミックなビジネスの変化も分析に取り入れ、移行に成功した企業を特定する能力を向上させていきます。

本稿では、気候変動の物理的リスクよりも経済的影響に焦点を当てています。物理的な影響は第一段階のモデリングに完全に組み入れられているとはいえ、プログラムの次の段階で分析をより充実させるつもりです。そのために、物理的リスクのシナリオ数を増やし、温度変化がより低いレベルで物理的な「転換点」が発生することを考慮に入れるとともに、物理的な損害を受ける資産の範囲を広げつつ、気候変動に適応するための重要な問題を深く探究します。今後は不動産やインフラ資産への影響に焦点を当て、2021年後半には別途レポート等を通じてASIの見解を発表する予定です。


*出典:MSCI。MSCIの情報は内部での使用に限り、いかなる形でも複製または再配布することはできず、金融商品や製品または指数の基礎または構成要素として使用することはできません。MSCIの情報はいずれも、いかなる投資決定(または回避)のためにも投資助言や投資推奨を構成することを意図しておらず、そのような目的で依拠することはできません。過去のデータおよび分析は、将来のパフォーマンス分析の予測または予想の示唆または保証とみなされるべきではありません。MSCIの情報は「現状」ベースで提供され、この情報の使用者は、この情報の使用の全リスクを負います。MSCI、MSCIの関連会社およびMSCIの情報の編集、計算または作成に関与または関連するその他の関係者(「MSCI当事者」と総称)は、この情報に関してすべての保証(独創性、正確性、完全性、適時性、非侵害性、商業性および特定の目的に対する適合性の保証を含むものの、これらに限られません)を明示的に拒否します。上記の内容を制限することなく、いかなる場合も、MSCI当事者は、直接的、間接的、特別、偶発的、懲罰的、結果的損害(逸失利益を含むものの、これらに限られません)またはその他の損害に対して一切の責任を負いません(www.msci.com)。

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