ファンド・ファイナンスとは何か
ファンド・ファイナンスとは、プライベート・エクイティ、プライべート・クレジット、インフラストラクチャー・ファンド、不動産ファンドなどのプライベート・マーケット・ファンドが(案件レベルではなく)ファンドレベルで利用する債務を指します。主に2つのタイプがあり、1つがサブスクリプション・ライン・ファシリティ(キャピタルコール・ファシリティともいう)、もう1つがNAV(純資産)ローンです。数十年の間、グローバルに展開する大手銀行が主としてファンド・ファイナンスを提供してきました。しかし、その扉は今、魅力的なリスク調整後リターンと高い非流動性プレミアムを備えた低リスク・高インカムのファンド・ファイナンスを求める機関投資家に開かれつつあります。
期待リターンとリスクはサブスクリプション・ライン(キャピタルコール)とNAV担保ファイナンスでどのように違うのか
サブスクリプション・ラインは、ファンドのリミテッド・パートナー(LP)のコミットメントを裏付けとする融資借入枠です。通常、多通貨建てのリボルビング・クレジット・ファシリティで、法的償還期限は1年から3年です。最上位の担保を裏付けとする高クオリティ資産で、クレジットリスクの対象はコミットしたLPに広く分散します。格付けは投資適格級が典型で、株式やその他クレジット資産との相関は低水準です。また、損失率はほぼゼロで、世界金融危機や新型コロナウイルスのパンデミック下でも好調なパフォーマンスを達成するなど、クレジットリスク特性は安定しています。
サブスクリプション・ラインとNAVローンは混同されがちですが、NAVローンはポートフォリオに組み入れられた複数資産を裏付けとして提供されるファンドレベルのローンであり、返済は組入資産の売却や組入資産から発生するキャッシュフローで賄われます。リスク特性は通常サブスクリプション・ラインより高く、期間も長期にわたります。
ジェネラル・パートナー(GP)がファンド・ファイナンスを利用する理由
GPはファンドの投資活動のブリッジファイナンスにサブスクリプション・ラインを利用します。例えば、投資家にキャピタルコールを行うことなく、買収や投資のためにサブスクリプション・ラインを活用します。これにより資金調達の確実性と柔軟性を担保し、レンダーに対する短期の事前通知で流動性確保が可能となり、事務的負担を軽減します。GPはこの調達形態によりキャピタルコールを「一本化」し、投資家の出資履行を頻繁に行うことを回避します。こうしてキャピタルコールのプロセスを「平滑化」し、回数と頻度を低減します。サブスクリプション・ラインは今日ではGPの戦略に欠かせないものとなっており、利用していないファンドはまれになりつつあります。
リミテッド・パートナー(LP)にとってのファンド・ファイナンスのメリット
足元の環境下、LPは流動性ひっ迫への懸念を強めています。ファンドがいつ、どのようにキャピタルコールを行うかが明確かつ詳細にわかっていなければ、先行き不透明感が高まります。GPがサブスクリプション・ラインを利用することで、LPは不確実で予測不能なコールスケジュールのためにコミットメント金額を流動性が高く利回りの低い資産に投資しておく必要がなくなります。キャピタルコールのタイミングがあらかじめわかっていれば、LPは流動性戦略を強化し、キャッシュフローをより適切に管理することが可能となります。
投資家はファンド・ファイナンスをポートフォリオでどのように利用すべきか
ファンド・ファイナンスは利便性の高い資産クラスです。投資家がサブスクリプション・ライン・ローンを組み入れる理由は、ポートフォリオの分散化、リスク調整後リターンの最適化、また場合によっては資本効率の向上など様々です。サブスクリプション・ライン・ローンに投資することにより、クレジットの質に妥協したり、過剰なリスクをとることなく、高い利回りを達成することが可能です。そのため、短期国債などに代わる代替投資先として高い関心を集めています。欧州保険会社のお客様や、社内の保険ソリューション・チームの専門家との話から、abrdn(アバディーン)ではファンド・ファイナンスが期待リターンに対する資本効率が魅力的な投資先のひとつであるとみています。ソルベンシー資本要件 (SCR)は、ローンの期間や格付け、保険会社のファンド・ファイナンスなど資産担保融資戦略のモデル化能力によって約2-3%となります。
下図は、欧州で一般的に保有されるパブリックおよびプライベート・クレジット投資の想定期待リターンと想定SCRの関係を表したものです。
図表1:想定期待リターン vs 想定ソルベンシー資本要件(SCR)
出所:abrdn、2024年1月。参考値。目標リターンは運用報酬控除前です。出所はabrdnの投資運用成果、また社債および国債はブルームバーグのデータに基づいています。
比較的短期の商品であるため、デュレーションではなく期間を使用しています。
他の市場リスクおよび非市場リスクに分散することで想定されるSCRに生じる潜在的な利益は保険会社のポートフォリオと投資規制により特定されるため、いずれの投資でも考慮していません。
保険会社の内部モデルの利用による利益も考慮していません。付随的利益は保険会社が自らに適用される規制に基づき評価するものであり、指針は示唆にすぎません。通貨はヘッジを想定しています。外部機関による格付けは外部クレジット評価機関(ECAI)によるものを想定しています。情報は変更される可能性があり、将来の運用成果を保証するものではありません。
ファンド・ファイナンスにおける優れた運用マネジャーの特性
ファンド・ファイナンスにおける優れた運用マネジャーは、投資プロセスのすべての段階に専門性を備えたチームを配しています。特殊な資産であるため、運用プロフェッショナルはサブスクリプション・ライン・ファシリティに伴う固有のリスクに精通していること、そして強固なオリジネーション・チャネルを有していることが求められます。また、短期通知のローン要請、多通貨のリボルビング・クレジット・ファシリティといったサブスクリプション・ライン業務の経験が豊富であることが必要です。また、ファンドおよびクレジット・ドキュメンテーションについて質の高いデューデリジェンスの実施も必要です。投資家は、社内に専門家委員会を設置している、またはリスク管理を専門企業にアウトソースしている運用マネジャーを検討するべきだと考えます。また、運用マネジャーと他の市場参加者との関係についても重視することを勧めます。最後に、ファンド・ファイナンス投資のリターンを最大化するには、資本をローンに安定的かつ予見可能に投下することが必要です。優れた運用マネジャーは、銀行や資金スポンサーと幅広い関係を築き、多数のチャネルを通じて質の高いディールフローへの常時アクセスを確保していることが求められます。
なぜ今、投資機会が豊富なのか
GPや金融スポンサーの需要が増大しているのに対し、サブスクリプション・ラインの供給はそれに見合っておらず、また銀行のバランスシートは需要に追い付いていません。さらに、2023年に米欧で複数の銀行破綻が起きたことで、成長中のファンド・ファイナンス市場からの供給が大幅に減少しました。突然の大幅な供給減少が起きた結果、機関投資家にとってプラスの影響が2つ生じています。ひとつめは、投資適格級の新規案件のローンマージンが2022年前半以降50ベーシスポイント超増加していることです。ファンド・ファイナンスのレンダーはこれまでよりも魅力的な非流動性プレミアムを得ることが可能となりました。ふたつめは、GPと資金スポンサーが当然ながら銀行のカウンターパーティリスクに敏感となったことです。その多くが対象レンダーを広げて分散化を図っており、1件や2件の主要レンダーに依存する状況は避けています。
サブスクリプション・ライン・ファシリティは変動金利型で、SOFR(担保付翌日物調達金利)、SONIA(ポンド翌日物平均金利)、EURIBOR(欧州銀行間取引金利)など当該ローン通貨の金利を上回ります。また、多くのファシリティが変動金利にフロアを設けており、金利下降局面においても投資家リターンを保護します。
ファンド・ファイナンスにおけるESG/インパクト投資の可能性
ESG(環境・社会・ガバナンス)やサステナビリティにリンクしたサブスクリプション・ラインへの需要が高まっています。適用されるローンマージンは、例えばポートフォリオ組入企業の二酸化炭素排出量の大幅削減など、あらかじめ合意したESG主要指標や目標対比でみたファンドのパフォーマンスにより決まります。こうした仕組みは投資行動やオペレーションにポジティブな変化を促すことを目的としています。また、国連のSDGs(持続可能な開発目標)に沿ったインパクト型投資戦略のファンドも増えています。投資家のサステナビリティ目標達成に寄与しうるファンド・ファイナンス・ファシリティで構成する分散ポートフォリオに投資することも今や可能です。
投資価値やそこから発生するインカムは上がる可能性もあれば下がる可能性もあります。また、受取額が投資額を下回る場合があります。