平均回帰はアルファの創出において有力かつ信頼性の高い源泉である、もしくはそうなり得ると広く考えられています。abrdn(アバディーン)は社債市場における平均回帰の有無について最近改めて検証し、この主張にある程度までは同意します。

平均回帰戦略は、過去のトレードデータから生成したトレードシグナルに沿って安値で買い高値で売る戦略です。価格はいずれ平均値に回帰してゆくとの考えの下、債券ファンドで銘柄を割安に購入、割高に売却するタイミングを見極める一助となると考えられています。しかし、社債のペイオフ構造を勘案すると、投資適格からの格下げやデフォルト(債務不履行)に陥った発行体を回避することのほうが重要であるとabrdnは考えます。1つまたは複数の発行体が格下げやデフォルトを解消できず、その後、経営が行き詰った場合、ファンドのパフォーマンスに悪影響が及ぶ可能性があります。

クレジット市場全体で、定量的またはルールベースのトレード戦略が増加しています。多くはパッシブ運用ですが、比較的アクティブな運用や「スマートベータ」と呼ばれる運用でも増加がみられます。また一部の比較的新しい戦略では、人工知能(AI)や人の手をほとんど介さないテクノロジーを活用しています。これらの多くは高度な運用であるにもかかわらず、平均回帰戦略を模倣したものか、もしくは過去のトレードデータに依拠したものです。

abrdnが最近行った分析では、平均回帰が統計的に存在することが確認されました。特に欧州の投資適格債で顕著に見られるほか、米国地方債など、その他の市場でも顕著に見られます。バックテストを行ったところ、平均回帰が大幅なアルファを生む潜在性も確認されました。ただしその一方で、逆の結果を生む可能性があること、しかも時に大幅に真逆の結果を生む可能性があることも示されました。そうなった場合、ポートフォリオの他の組入銘柄の良好なパフォーマンスを損ねる可能性があります。

平均回帰の実例

図表1は、衛星通信運用会社Eutelsat(ETLFP)とSES(SESGFP)のユーロ建て債券のパフォーマンスを比較したものです。両債券ともにクーポンは低く、満期は2028年であり、2022年にフィッチからBBB格付けと評価されています。つまり、信用力、セクター、満期、流動性ともに条件が同じです。クレジット・スプレッド(図表の実線)も2022 年 6 月末時点では同水準でした。

図表1:平均回帰は常に機能するのか?

点線(右軸)は、各債券のZスコアを示しています。Zスコアは、債券価格が過去の水準よりいつが「割安」または「割高」なのかを判断するのに使われます。言い換えれば、平均回帰する可能性が最も高い債券を識別するためのものです。

Zスコアが2または3より高い場合、通常、当該債券が割安であることを意味します。両債券のZスコアは2022年夏に最高値をつけました。Eutelsatは2022年7月下旬に7を超え、SESは2022年8月上旬に最高(4近く)をつけており、共に確信度の高い買い銘柄ともいえました。

平均回帰するか否かを決定する主な要因として、a) Zスコアの計算に使用された売買データの期間の長さ、b)平均回帰が生じると予想する期間、の二つが挙げられます。

abrdnの分析は(a)と(b)の両方の推定値を算出しました。わかりやすく説明するため、平均回帰が生じる頻度は6カ月後が最も高いと仮定します。Zスコアが最高値(買いを示す)をつけた後の6カ月を図表上に両矢印で示しました。

図表が示すとおり、SES は平均回帰し、スプレッドは100ベーシスポイント(bp)以上縮小しました(債券価格は上昇)。しかし、Eutelsatは回帰せず、6カ月後のスプレッドはむしろやや拡大しました。

平均回帰に6カ月以上を要すると仮定して、シグナルの9カ月後を見てみましょう。SESのスプレッドは50bpをわずかに上回る程度まで拡大(つまり6カ月後よりも債券価格は下落)したとはいえ、依然としてタイトな水準にあります。一方、Eutelsatのスプレッドは反転し、100bp超縮小しました。この結果から得られるメッセージは、あらかじめ定められた一連のルールやトレード指針に従った場合、結果が著しく異なることがあるということです。

将来に目を向ける

図表1の後半のデータを見てみると、平均回帰を再テストまたは再設定しても機能しない可能性があることがわかります。EutelsatのZスコアは2023年初に再び2を上回りましたが、スプレッドは(多少の変動はあったものの)年間で大幅に拡大しました。2022年の教訓(つまりEutelsat債券はZスコア最高値から6カ月以内よりも9カ月以上保有したほうがリターンが優れている)に従っていたら、投資家は大幅にアンダーパフォームしていたと思われます。一方、SESは引き続き幾分の平均回帰を示し、何度か変動はあったものの、スプレッドは縮小しました。

これはほんの一例に過ぎません。平均回帰に依拠しても機能しない例は他にも多数あります。これは、足元と過去のトレード水準を考慮するばかりではなく、将来を見据えたファンダメンタルズに基づくクレジット分析を行うことの重要性を色濃く映し出すものです。

では、再びEutelsatとSESの債券を見てみましょう。ある時点で、市場(およびフィッチ)はEutelsatとSESの信用リスクを同水準と評価(つまり同じスプレッドと格付け)していました。しかし、将来を見据えたファンダメンタルズ評価では、Eutelsatの業績と、その後の負債対比でみたキャッシュフローに関して重大なリスクを指摘することができた可能性があります。市場と格付会社は2023年にEutelsatの信用力低下を捉え、それを価格と評価に反映させました。その結果スプレッドは著しく拡大し、Eutelsatは投資適格からハイイールドへと格下げされました。

おわりに

平均回帰を含め、社債のトレード戦略には限界があります。新型コロナの影響や長年の超低金利など最近の市場環境の変化は、過去の経験や、金利正常化を想定した仮定だけに依拠することが望ましくないことを示唆しています。

クレジット分析で正確な投資推奨を行うためには、さまざまなデータや変数を考慮する必要があります。abrdnでは、平均回帰やルールベースの投資アプローチのみに依拠することはありません。代わりに、債券の発行企業と面談し、変化を把握し、過去ではなく、将来の運用パフォーマンスに影響する要因を特定することに注力します。

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