ブロックチェーン技術が、地味なマネー・マーケット・ファンド(MMF)に新しい可能性をもたらしており、今後も可能性の拡大が期待されています。「デジタル資産」特集第1弾では、MMFのトークン化の可能性を探ります。

マネー・マーケット・ファンドの特徴

マネー・マーケット・ファンド(MMF)がディナーパーティーの話題に上ることは通常はありません。しかし、過去2年続いた金利上昇局面を受けて、地味な投資商品であるMMFの人気が高まっています。

MMF(短期金融市場流動性ファンドとも呼ばれる)は、短期国債を主な運用対象とする低リスクの現金に近い投資商品です。投資リターンは金利に応じて増えます。支払われる利息が非常に限られる銀行当座預金(また普通預金には預け入れ上限があります)と比較すると、MMFはとりわけ魅力的です。さらに、MMFは企業の日々の資金管理にも不可欠です。

MMFは日次で解約可能です。ただし注意点があります。資金の当日受け取り(実際のところ、誰もが現金への即時アクセスに慣れているため)を選択すると、分配金を日々、現金で受け取ることになります。これは、年率換算リターンと同等のリターンを達成するには分配金を受け取るたびにファンドに再投資を繰り返さなければならないことを意味し、ほとんどの投資家には管理上の負担となります。そうした負担を回避したい場合は現金の受け取りを翌取引日に遅らせる必要があります。この選択は一部の投資家には受け入れ可能かもしれませんが、ほとんどの投資家は、個人、法人を問わず、必要に応じて即座に現金が手に入るよう、分配金の決済当日の受け取りを望んでいます。

ブロックチェーンのトークン化と「エアドロップ」

ブロックチェーンのトークン化はまさにそうした要望に応えます。ファンドの所有権がブロックチェーン上に表されることで、分配金の同日受け取りと自動再投資を可能にします。その場合には、受け取った分配金は投資家の口座に新しいトークンとして「エアドロップ」されます。投資家の利便性向上のために流動性ファシリティの開発が進むと、現金へのアクセスはより頻繁に可能になるとabrdn(アバディーン)は予想しています。

 

MMFトークンはファンドのトークン化の始まりに過ぎません。abrdnは、資産運用会社によるブロックチェーンのトークン化が進むほど、多くの関連商品が登場すると予想しています。

DUNCAN MOIR, オルタナティブ投資、シニア・インベストメント・マネジャー

2023年初、英金融行動監視機構(FCA)の規制下でデジタル資産ビジネスを手掛けるアーチャックス(Archax)は、abrdnのMMFをトークン化し、自社のデジタル資産取引所での提供を開始しました。これは、企業向け分散型台帳技術(DLT)であるヘデラ・ハッシュグラフ(Hedera Hashgraph)を利用しています。プロの投資家はArchaxのプラットフォームに直接接続が可能です。個人投資家はブローカー経由でそれぞれに適した商品に間接接続します。テクノロジーとファンドをつなぎ、新たな境界線を押し広げるこのMMFトークンへの関心は高く、当初の予想をはるかに上回るものでした。多額の現金残高を持つデジタル資産会社が当初のターゲット市場であろうという私たちの見立ては正しかったのですが、決済サービス提供会社のような、よりテクノロジー主導型ではあるものの、伝統的な企業からの関心を過小評価していました。より迅速なアクセスを提供するため、運用とテクノロジーの改善を進めていく中で、MMFトークンへの関心は更に高まると予想しています。

トークン化とMMFの未来

MMFトークンはファンドのトークン化の始まりに過ぎません。abrdnは、資産運用会社によるブロックチェーンのトークン化が進むほど、多くの関連商品が登場すると予想しています。多くの資産運用会社は、トークン化を通してプライベート・マーケット投資商品への一般投資家によるアクセスの実現を目指しています。一部の資産運用会社はファンドのトークン化にすでに取り組んでいますが、誰でも参加できるパブリック・ブロックチェーンの利用と従来型分散システムとの接続がいずれも限定的な水準にとどまっている中で、市場需要を本格的に試算したところはこれまでのところほとんどありません。こうした状況は2024年には変わると期待しています。なぜならabrdnや一部の資産運用会社が市場に提供するトークン化商品を増やす意向であるためです。政策当局、規制当局、業界は金融サービスのイノベーションとそのための投資の必要性をますます強調しており、ハッシュグラフのような企業向け技術(enterprise technology)やArchaxなど規制当局の認可を受けているデジタル資産取引所を活用する資産運用会社の数は増えると予想しています。abrdnは、ファンドのトークン化とそれによる投資価値の向上に大きな可能性を見出しています。

他の投資と同様に、マネー・マーケット・ファンド(MMF)の保有価値は下がることもあれば上がることもあります。受取額が投資額を下回る場合があります。